いろんな話
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あんびえんすギターの話楽屋話
Soul Soul Soul

 ボクはジャズミュージシャン。特に若いころは、ストイックに真面目に音楽を追及するようなタイプでした。
だから、実はウエスタンから音楽に興味を持ち始めたことや、ソウル系音楽やポップな音楽も好きなことなどは、昔はあまり人に話したことがありませんでした。なんとなく、ジャズミュージシャンがそういった音楽を聴いてはいけないような雰囲気があったからです。

初めてアメリカへ行ったとき(1971年だったかな)も当然、シリアス系ジャズのライブをたくさん聴くこと、本場でのセッションに参加してジャズを探求することが目的でした。が、実はこの渡米のタイミングが、その後のボクの音楽スタイルを、自分でも想像しなかった方向へ導いたと言っても過言ではないのです。

この年はアメリカの黒人にとってエポックとなる大ヒット曲が生まれた年です。
まずは「シャフト(Shaft)」。この黒人私立探偵を主人公にした映画の大ヒットにより、音楽のアイザック・ヘイズはワウペダルギターで一躍時の人となりました。「シャフト(Shaft)」は、それまでの白人中心のハリウッド製の映画とはまったく異なり、ニューヨークをリアルに描いた活劇映画です。(ちなみにこの年は、やはりニューヨークを舞台にしたリアリティー映画で、ジーン・ハックマンの「フレンチコネクション(French Connection)」もヒットしていました)
そしてもうひとつのメガヒット曲は、Hey men, what's happening〜?という喧騒の中のノイズから始まる、マービン・ゲイの「What's going on?」。今や古典というか伝説的な曲として、多くの人々に愛されています。これらの曲を筆頭として、数々のブラックミュージックがヒットチャートを賑わしていましたが、特にこの2曲はその頃毎日何度も聞いたので、今でもその頃の思い出と一緒に体に染み付いています。
当時、異国の地で接したあらゆるものを全て吸収するぞ!と意気込むボクの耳に飛び込んできたアメリカの音楽は、ジャズへの探求心と共に、ボクの中に深く刻まれました。

帰国後、商業音楽(スタジオで録音する音楽)の世界へ自然と入っていったことも、ジャズの世界へ戻った際、独りよがりにならないように、お客さんが楽しめるようにと努力をしたことも、この経験がさせています。また、ソウル系の音楽に興味を持ち、エリック・ゲイル、フィル・アップチャーチ、ジョン・トロペイ、デビッド・ティー・ウォーカーなどが大好きでコピーしていたことも仕事にすごく役立ちました。スタジオでの商業的な仕事には、専門分野があることはもちろんだけど、他のジャンルにも興味や知識があることがプラスに働いたようです。

最近ソウル系の歌手ともよく仕事をするのですが、20代のころの感覚が依然として生きているのを感じます。冒頭でも言ったようにボクはジャズギタリストです。だけどこの内面の感覚も、伝わるかな。