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あんびえんすギターの話楽屋話
Wes Montgomery と Oliver Nelson

 ボクは昔「原信夫とシャープス・アンド・フラッツ」というビッグバンドにいました。(むかしの話参照)当時日本でジャズのレコーディングをするのにアメリカのアレンジャーに依頼するなんてことはありえないことでした。しかし原さんはそれを実現した人です。

 当時のちょっとアバンギャルドなアレンジャーとして認知されていたオリバー・ネルソンに打診したところ、OKとの返事がきて、その成果が「3・2・1・0」というタイトルのアルバムとなりました。アルバムタイトルの曲はロケット発射のカウントダウンをモチーフにした曲で、時代を反映していました。


 野心に燃えた若いギタリスト(ボクのことです)にとって、オリバー・ネルソンと一緒に仕事ができたのは貴重な経験となったのですが、当時のボクは英語もできず、レコーディングや、いくつかのコンサートで結構長く接する機会があったにもかかわらず、彼とはたいしたコミュニケーションができませんでした。今考えると大変もったいないことです。。。。

 しかしその数ヶ月後、何の前触れもなく新しい譜面がオリバー・ネルソンから届きました。
3-2-1-0
3-2-1-0/
シャープスアンドフラッツ'69
Rec:'69/9/19,20
日本コロムビア (XMS-10022)
原信夫, 谷口和典, 加藤久鎮(ts), 前川元, 鈴木孝二(as), 森川信幸(bs) 森川周三, 福島照之, 佐波博, 篠原国利(tp), 谷山忠男, 鈴木弘, 橋爪智明, 中島正弘(tb) 菊地雅章(p:特別参加), 竹内弘(b), 中村吉夫(ds), 直居隆雄(g)

オリバー・ネルソン( A面:arr, B面: comp. arr)

 それはその数年前にウェス・モンゴメリーのために編曲したもので、[Wes Montgomery / Goin’Out Of My Head] と [Jimmy and Wes / Dynamic Duo]というアルバムに収録されているアレンジです。

 当時ボクはウェスの曲だ!と言うくらいで、大して物事を考えず演奏していましたが、それは、東洋のジャズバンドと初めて仕事をしたオリバーが、東洋の若いギタリストに演奏させようとウェスのために書いたアレンジを送ってきたのでした。

 ボクは10代の頃に初めてウェスを聴いて、それまで聴いていたギターの音と全然違うことにビックリし、ジャズギターの格好良さにハマっていったので、ウェスがいなければ当時はもちろんのこと、今のボクもいません。

 一緒に仕事をした時、オリバーとはほとんど口をきかなかったけど、僕の演奏を聴いて、ウェスに憧れているのを察したのでしょう。その意味を今考えると冷や汗たらたら、鳥肌ボツボツの感があります。

Goin' Out of My Head
Goin' Out of My Head
Wes Montgomery
(Vearve 825 676-2)

Arranged and Conducted by
Oliver Nelson

 閑話休題

 先日[L-5 Brothers / Heart Made]というアルバムを録音しました。萩谷清クンというギタリストとのジャズギターデュエットアルバムです。

 萩谷クンとはジョージ・ベンソンがきっかけで仲良くなりましたが、萩谷クンもウェスをとても尊敬していて、録音のときも「このアルバムはウェスへのトリビュートにしようね」と話していたくらいです。ウェスという共通点もあったことで、このアルバムの話もすんなり進んだように思います。
 ウェストコーストブルースとかサマータイム(これはウェスの 4 on 6 という曲のコード進行を使いました)を演奏中にはウェスの「音」が頭の中でずっと鳴っていました。

 こんないきさつもあって、最近なんとなくウェスを聞くことが多くなり、ボクの所有しているLPを探してみたところ、その中に先ほどの[Wes Montgomery / Goin` Out Of My Head] と [Jimmy and Wes / Dynamic Duo]がありました。

 ジャケットを見たとき、一気に40年ほどタイムマシンで戻ったような奇妙な感覚にとらわれました。今聞くと昔よりももっといろんなことが音楽を通じ伝わってきます。音楽がこんなにたくさんのことを伝えることができるのだと感動します。当時のウェスやオリバー・ネルソンの歳をはるかに超えた今だから理解できることがたくさんあるのですね。


The Dynamic Duo
The Dynamic Duo
Jimmy Smith & Wes Montgomery
(Vearve v6 8678)

Arranged and Conducted by
Oliver Nelson


 結局ウェスは生で見る(聴く)ことはできませんでした。たしか68年、40代半ばで亡くなってしまったからです。アメリカの友人からもらったニューポートジャズフェスティバルの生写真(共演者はウィントン・ケリートリオです!!)が唯一ボクとウェスとの接点です。

 [Jimmy and Wes / Dynamic Duo]のもう一人のソリストであるオルガンのジミー・スミスとはパリの空港で8時間ほど一緒に遊んだことがあります。コメディアンのようなキャラクターの人でめちゃ楽しいひとときでした。その彼ももういません。

 ウェス、オリバー、ジミー・スミスみんないなくなってしまいました。
 合掌。